契約自由の原則を知っておこう

契約をするといったことは、何か形式が決まっていたり、相手も心得ているはずだから、相手の言うとおりに契約をしても大丈夫だろうと思っている方が非常に多いのではないでしょうか。

なぜなら、私たちが今まで生きてきた中で、そんなに難しく契約書を見たり調べたりすることはほとんど無かったはずです。

私たちの世の中が安心して買い物や契約が出来るのは、売り手やサービスの提供者である側が、法律や社会的秩序を守るというモラルを守って活動しているからです。専門学校に入る。旅行会社で旅行パックを買う。保険に入る。といった事は契約行為をともないますが、これらは相手が自ら作った契約を守り、あるいは約款をこまかく定めて、それを自らが守っているからこそ、買い手は安心して、細かな事を考えず、契約書にどう書かれているかも確かめずに、相手の言うとおりに契約しても不都合が生じることはまずありません。

でも、住宅の売買契約や請負契約はまだまだ危険な業者や、自分勝手な業者が横行している世界なのです。そしてかれらの多くは焦らせたり、買い手の無知につけ込んだりして契約だけを急ぎます。その相手の言いなりに、そして不利な契約をしてしまったも、自分が無知だった、誰も教えてくれなかったと叫んでも、国も法律も助けてくれないのです。

その理由をこのページでは説明しています。
それは、私たちが社会生活をしていく上で、ぜひとも知っておかなければならない概念なのです。

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私的自治の原則

これから説明することは、大学の学問レベルでは、『私的自治の原則』とか、もう少し狭義の意味合いで言えば『契約自由の原則』といった言葉で言われています。

『私的自治の原則』とは、近代法では個人の人格を均しく尊重し、国家は出来るだけ私人の生活に干渉すべきではないと考えられています。そこから、私人が生活をしていくさいに、他人との間で結ばれていく関係も、全て私人の意志に基づいて自由にされるべきものとされています。そのため、現在いろいろな法律が制定され、運用されていますが、その根底にはこの大原則が貫かれています。
(ここで言う私人とは、全くの個人を指すと同時に、会社などの法人も含まれています。つまり、個人と会社との間で行われる契約行為は私人同士の間で結ばれる契約ということになります。)

契約自由の原則

上の「私人が生活をしていくさいに、他人との間で結ばれていく関係も、全て私人の意志に基づいて自由にされるべき」という大原則から、つぎに『契約自由の原則』という原則がうまれ、これが私たちがいろいろな契約をする際の基本原則となっています。このなかには、4つの原則があります。

  1. 締結自由の原則
    契約をするかしないかは当事者の自由意志で決められる、という原則
  2. 相手方自由の原則
    どんな相手と契約するかは当事者の自由である、という原則
  3. 内容自由の原則
    契約内容をどんなものにするかは当事者の自由である、という原則
  4. 方法自由の原則
    契約の方法は自由である、という原則

「締結自由の原則」「相手方自由の原則」とは文字通り誰でもが実践している通りのことで、ある家電を買うのに、自由に店を選ぶ行為のことですね。また、この2つを住宅の契約で置き換えれば、「少し不安を感じながら契約をする」と言うことも、それは当事者の自由だ。と言うことにほかなりません。でも次の2つが私たちがもっとも不慣れな部分で、ともすれば相手の言いなりに契約をしてしまう危険な部分なのです。

内容自由の原則

「とりあえず契約してください。後でいくらでも決められます。」

「内容自由の原則」の意味は、どんな内容で契約をしようが自由だ・・ということですが、冒頭の説明のように・・学校に入る。旅行パックを買う。あるいは保険に入る・・といった私たちのほとんどの契約行為は、実は相手側が事細かな内容を事前に作成しているのです。

しかし、住宅の売買契約や請負契約で多い事例ですが、内外装も、住宅設備も何も決めずに、「とりあえず契約してください。後でいくらでも決められます。」というセールストークを真に受けて、概略の間取りだけで契約してしまう場合でも、この契約は有効となってしまいます。

なぜなら、法律上は、あなたがそういう曖昧な契約でもよいと思って契約したと解釈され、契約は有効とみなされるからです。このとき悪質な業者にかかると、契約後に法外な追加工事を請求されてしまうことになりかねません。もちろん、請求後に値引き交渉をするのも自由ですが、すでに主契約をしてしまっているのですから、立場は相手の方が上になり、値引き交渉にも応じてこなければ、言うなりに支払うか、追加を止めるかという選択しか無くなってしまうため、契約後の値引き交渉は大変な困難を伴います。

このような、今まで私たちが無意識に行ってきたいろいろな契約は、実は相手側が詳細な内容を作成し、迷わないように作られていたのです。しかし、住宅の場合、特に悪質な販売者や請負者、あるいは営業マンの場合は、仕様を曖昧にしたままで、契約だけを急がせるのです。でも「内容自由の原則」がありますから、どんな内容で契約しようが法律は救ってくれません。

方法自由の原則

方法自由の原則とは、どのような契約書式で契約しようが、自由だと言うことで、たとえば口頭の約束でも契約は成立します。ただ、言った聞いていないのトラブルが発生すると口頭では、その時何を決めたかが証明できないために紙に書いた契約書や議事録を作っている例がほとんどですね。

でも、申し訳程度の取り決め(約款)が書かれた契約書はあるものの、引き渡しが遅れた場合の遅延金が書かれていないといった契約書をよく見かけますが、これで契約をするということは、これも当事者がその様な取り決めは不要だ、と判断したと見なされてしまいます。

「相手方の提示した約款に書かれていなかったから、契約ってそんなものだと思っていた。」という言い訳は法律の世界では通用しません。(注:遅延金が書かれていないから引き渡しが遅れても遅延金を支払ってもらえる権利が無くなるのではありません。引き渡しが遅れたその時点で全く新たに交渉しなければならないため、困難が生じるということです。相手に支払う意志がなければ遅延金の交渉にすら付いてもらえませんから泣き寝入りをするか、裁判で訴えるしか方法が無くなります)

注:法律の世界で通用しないとは、裁判で「違約金を書いていない相手が悪い」と訴えても勝てない-相手にされない-という意味です。

自己責任の原則・・世間は冷たい

私人が生活をしていくさいに、他人との間で結ばれていく関係も、全て私人の意志に基づいて自由にされるべき」だからこそ、私たちの契約行為は、法律や公序良俗に反しない限り、どんな契約を結んでも自由なのです。

これらのことを逆にいうと、どんな契約を結ぼうと、あるいはそのために不利益が生じようと、それは契約をした当事者双方の自己責任なのです。キチンと決めてから契約をする。曖昧なまま契約をする。そのどちらを選んでも、あなたは「契約自由の原則」の権利を使って契約をしているのです。その結果不利益が生じても、それはあなたの責任なのです。つまり「契約自由の原則」というこの社会を貫いている概念は、自由と責任を天秤にかけた非常に厳しい原理ともいえるのです。

契約すると法律違反となるもの

とはいっても、法律で契約そのものが禁止されたり、制限されたりしているものがあります。法律で禁止されたり制限されたりしているのに、その当事者が契約行為に及べば、その契約は法律違反をしているので無効となります。でもその様なことはごくごく限られています。

宅建業法
(不動産業者が守るべき法律)
・不動産業をするためには免許が必要
・造成許可が必要な宅地で造成許可を受けずに契約出来ない
・建物を売る場合は事前に建築確認を受けておかなければならない(請負契約は構いません。売買契約はダメです)
建設業法
(建築会社が守るべき法律)
・1500万円以上の工事を受注する場合は、建設業許可が必要
消費者契約法など
(誰もが守るべき法律)
・嘘を言って契約させてはいけない(不実告知)
・大事な事柄についてデメリットを故意に説明せずに契約させてはいけない(不利益事実の不告知)

世の中の多くの方が住まいを取得しています。そして多くの人はこのような事に思いを巡らすこともないでしょう。なぜなら、ほとんどがまじめな業者で、まじめに法律を守って仕事をしているからです。

でも、時々いい加減な業者や自分勝手な業者、あるいは無責任な営業マンも横行しているのが不動産業界、住宅業界です。

「契約自由の原則」は経済社会、現代社会の大原則(概念)となっています。

私たちは「契約自由の原則」の上に立って自由な契約や取引が出来ると同時に、その結果責任は全て自分がかぶらなければならないのだ・・・と言うことを肝に銘じておく必要があるでしょう。

このように書いていくと契約約款を吟味しなければダメだ、と誤解されやすいですが、決してそういうことを言っているのではありません。
住宅の契約トラブルで最も多いのは「仕様が曖昧なままに契約して、後での追加変更で、費用が相手の言いなりだった」というケースです。

たとえば、単にシステムキッチンと書かれているだけでは、その後で変更しても何を基準に費用の増減がされているのか追求のしようがありません最初の仕様が曖昧であれば、最初にチラッと見せてもらったものよりもグレードの下げた商品カタログの「この中から選んでください」といわれても文句の言いようがありません。また、工期が明確でなければ、ずるずる工期がのびても遅延金を請求する根拠がありません

つまり、約款という事務的な決めごとではなく、曖昧な仕様(内外装の仕上げや住宅設備のグレードや中身)のまま契約することや、相手を盲目的に信用して過分な支払を続け、トラブルが起こっても言いたいことが言えない支払条件を飲んで契約してしまうといった、自分が不利な立場に追いやることを意識もせずに契約してしまうことが最大の原因なのです。

 

私が曖昧な仕様で契約をしようとする方に言う言葉があります。
「あなたは自動車を買うときに、250万円という金額だけで契約するのですか?」
「エンジンの排気量も知らず、シートがレザーシートかファブリックシートかも知らず、キーレスエントリーが付いているのかどうかといった細かなオプションを全く見ずに、ただ、この大きさとこの金額というだけで今まで契約していたのですか?」と。

そしてこれを問いかけられた全ての人は「いいえ。そんな契約はしませんでした。細かなオプションまでチェックして契約しました。」と返事をされます。

自動車は、買い手商品選びやすいように、比較検討がしやすいように、売り手側によって詳細な仕様(バンフレット)が用意されています。でも、住宅はそういう仕様を一生懸命説明しようとしている良心的な業者と、売れればいい、契約できればいいと考えるだけの、おざなりのパンフレットしか用意していない質の悪い業者も一杯いる世界なのです。

不動産業界や、住宅業界は始めてだから勝手が分からない、という逃げ口上を言う方もいます。でも、今までの説明を全て読めば、相手の良いように躍らされているだけだったのが分かるはずです。

あなたが通ってきた世界のほとんどは、売り手が商品の内容を十分に説明していた世界。でも不動産業界、住宅業界は少し違います。その違いを知ることが、「契約自由の原則」を理解することになるのです。

そして私たちを取り巻くほとんどの法律は、「私権を侵さない。契約の自由を侵さない」という大前提で作られているからこそ、契約のもたらす結果について法律が私たちを守ってくれる訳ではないのです。

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